開発にいたるまでの経緯を克明にリポート 後編
木と鉄
家具用の取っ手についてもあちこちからサンプルを集め、ROBUSのイメージを探したんです。
でもサイズ、質感、デザイン、色… どれを見てもピッタリなのがない。
じゃあ、これも作ってしまえと(笑)まずは素材を考えました。
僕のイメージからすると真鍮か鉄が良いだろうと思って少し悩んだんですけど、鉄に決定。真鍮の色がROBUSの家具とは合わないと思って。
取っ手作りを決意したのはいいけど、どこで作ればいいんだろう?ってまた悩む…
決意だけ先行で取っ手作りをスタートしたわけです。
でも鉄と言えば… 僕の頭の中に川口の鋳物工場が思い浮かんだんです。
川口はけっこう馴染みがあったし鋳物町で有名だとは知っていましたから。
だけど何の伝手もないし工場も知らない。
ふと、組合とかあるだろう?
って思って探したらホントにあったんです。
すぐ川口の鋳物組合に電話しましたよ。
「家具の取っ手を作りたいんですけど」って(笑)
そうしたら数社教えてくれました。電話してみるもんですね。
教えてもらった会社に電話して話をしたら、作れそうな会社が見つかったんです。早速、鉛筆で手書きしたデザイン図面を片手に打ち合わせに伺いました。
数量などもすごく良心的に対応してもらえ、取っ手製作もスタート。
問題はありましたけど何度か調整してもらい、今の取っ手が完成しました。
鋳物の取っ手はひとつひとつ個体差があって味わいがありますよ。
生活空間での家具の役割
ブランド物とか高級品がもたらしてくれる贅沢も嫌いではないけど、最近はそれほど価値を見出せなくなってきた。
毎年新作が出るし、流行もあるでしょ?
そのスピードにアンテナを張り巡らせて生活するのってすごく疲れる気がして…。
だから『自分時間』を大切にしている。
自分の時間を豊かにしてくれるものが僕も求める家具の基本。
もちろん家具だけじゃなくて植物だったり、空間そのものだったりするんですけど、
家具が空間や時間に与える影響は大きい。
家は僕の仕事にとっても重要で、落ち着ける場所であることがいちばん。
だからお気に入りの家具に囲まれた、癒される空間であることが大事。
早く帰りたくなる家が理想ということかな。
外で仲間と飲むお酒も好きだけど、気に入った家具に囲まれたてマッタリと飲むお酒も大好き。
無垢のテーブルでお酒。休みの日のコーヒー、読書、パソコン…。
意識しなくても心地いいんです。生活に溶け込んでいる。
家具は主役ではなく、空気のような存在かもしれないけど、家具にとってもそれが本望ではないかな。
普通の日々を好きになることが最高の贅沢だし、それを陰で支える家具が理想の家具。
普段着のような家具
僕の考える家具は日常生活の中に溶け込む『普段使い』の家具なんです。
そういう家具って流行がないし飽きない。
スタイリッシュすぎる空間ってどこか苦手です。
いつも磨いてないとダメな気がして…。
ピカピカだと埃とか目立つし(笑)
僕にとっての家は少しズボラなところがあってちょうどいいんですよ。
だから生活感を受け入れてくれる家具の方が好き。
家ではジーンズやスウェットでいる時間も多いから、そういう格好でも馴染む家具。
存在感はあるけど気取らない、みたいな家具っていいなと思う。
そんな家具を気に入ってくれる人がいたら嬉しいし、普段使いできる実用的なカッコイイ家具を作りたいと思っていますよ。
リアルファニチャー
僕の家具作りに対するスタンスって凄くシンプルだと思うんです。
いわゆるデザイナーズ家具ってありますけど、あれとは感覚が違うかな。
デザイナーズ家具って椅子が究極だと思います。
もう芸術品みたいな感じで。
僕が家具に求めるのは頑丈さと実用性。
服で言うとリアルクローズに近いのかな。
デザインはバランスという意味でとらえています。
バランス感覚って人それぞれなので、万人受けしなくて当たり前だと思っています。
だからROBUSの家具は、自分で使いたいかどうかが唯一の基準になっています。(笑)
工場を持たない家具屋
工場を持たないということで製品の質を不安に思う人がいるかもしれないけど、逆に工場からすると僕たちはお客さん。だからお客さん目線でチェックできる。そういう意味で製品作りに甘えがないんです。
廃業する家具工場も多いなか、僕たちが厳しい目で鍛え、その良さが家具を使う人に届くなら、
工場も存続し、雇用を持続、熟練職人の技術を若い人たちが受け継ぐこともできる。
僕たちは設備投資が必要ないので、こだわりの発想で家具をデザインすることと、それを伝えることに注力できる。お互いにとってメリットが大きいんです。
商品の完成
図面に描いたデザインが実際の製品になるときってすごい緊張感があります。
頭では立体的にイメージしてデザインしてるんですけど、やはり完成したときのバランスや質感は図面では分からない。
もちろん自分がパブリックスペースで気づいたこともデザインに取り込んではいるけど、
サイズを測ったりした訳ではないので記憶から取り出すしかない。
だから出来上がってきて実際に座ったり物を入れたりして初めて、身体感覚とイメージを重ね合わせられる。
ROBUSでは節のある商品は工場と『節の規定』を決めて製作しているんですけど、節の大きさや出かたでそれぞれの表情が違うし、
木の色も微妙な個体差がある。
だから出来上がった商品を自分の目で見るまでは期待しながらも、とても緊張しているんです。
こうした過程をクリアして初めて、これだ、と実感できるんです。
欲しかったのはこれだ、これならお客さんに自信を持って出せる。
ダメだったらデザインし直し、作り直し。そうして納得のいく家具が現実に現れたときに初めて
商品として完成するんだと思っています。
商品撮影
完成した家具を撮影をしてウェブサイトに載せていますが、この商品撮影がメチャクチャ大変でした。
とにかく重い。半端じゃない重さ。
ホワイトオークは比重の重い木なので、同じ大きさの他の木と比べても格段に重いんです。
撮影は終わる時間が読めないから運搬業者にも頼めない。
必然的に搬入や搬出を自分たちでやるんですけど、一生忘れられないくらい過酷でした。
スタジオにはエレベーターがなく、終わる頃にはもうヘトヘト。
最後はカメラマンやアシスタントの方にも手伝ってもらって全員総出で運びましたけど、それでもキツかった。
身体で無垢の重さを感じましたよ。
無垢の重厚感はお宅に届いた瞬間に感じると思います。
運ぶときはくれぐれも気を付けてくださいね。(笑)
しかしお客さんに完成度の高さや無垢材の質感、この家具と一緒に暮らすイメージを伝えなくてはならないと、
カメラマンを始めアシスタント、スタイリストは全員が真剣勝負。
いい写真が撮りたい!って本気になった。
だから結局は楽しかったと言えるんです。
家具は育てるもの
無垢材は身体や環境にいいのですが、
経年すると徐々に色が深まって、印象が変わってくる。
そこが無垢の楽しいところではありますが、
いい具合に味を出させるには多少の手をかけてあげることも必要。
ときには木が反ることだってあるかも知れない。でもそれが木の持つ自然の力。
丁寧作られた家具だからこそメンテナンスして長く使い、生活をともにしてきた家具にはやがて大きな愛着が湧く。
傷や汚れもアルバムみたいなもので、思い出になると思うんです。
僕にはまだ小さい子供たちがいるんですが、家具も人と同じで、育てていくものだと感じるんです。
人も家具も味わい深く育て。
本物の木の表情を生活の中に置くことで、子供たちは自然の豊かさや力強さを感じられる人になる。
家具は教育にもつながると思っています。